「徐晃殿」
呼ばれた気がして振り向けば、そこには誰も居なくて
気のせいか…と廊下を歩き出せば、また
「徐晃殿」
「……張遼…殿…?」
なんだか彼の声に聞こえた気がして、『まさか』と思って振り向いた
でもやはり誰も居なくて
そもそも、彼が此処に居る訳がない。彼は今、合肥に駐留しているのだから
「空耳…か」
誰も居ない薄暗がりの廊下で一人、安堵とも落胆ともとれるような微妙な溜息を、無意識に漏らした
ふと、窓から空を見上げれば、漆黒の空に数多の星が降り注いでいる
彼も今、同じ空を見ているのだろうか
「徐晃殿」
徐晃が夜空を見上げていた丁度同じ頃、張遼も城壁の上で合肥の夜空を見上げていた
徐晃と離れて暫く経った
離れてみると愛おしさが増す――なんて。そんなこと自分に限ってはないだろう、と思っていた
しかし、自分も例に洩れずだったようで
会いたい 逢いたい 貴方に 触れたい
募る想いは強くなるばかり
「徐晃殿」
逢いたいです、と呟いて、星の降り注ぐ空を仰いだ
彼も今、同じ空を見ているのだろうか